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ケーファーボールペン/シャープペン開発秘話

企画遍

きっかけ

この稿ではケーファーについての開発話を書いていきたいと思いますが、このペンがキリタの代表的ペンであるため、キリタの開業秘話的な側面からお伝えする必要があると思っています。

ペン工房キリタの正式社名は桐平工業株式会社です。
大手筆記具メーカーの下請け会社として、主に中高級筆記具の生産供給をになってきました。

バブルの頃には、海外のバッグや服飾ブランドのライセンス商品の注文が多く、相応に儲かっていました。

その後、景気の減退と共にライセンスブランドのペンが売れなくなり、同時にブランド側が本業以外のライセンス商品を締めつけ始めた時に、国内メーカーは高級品を縮小せざるをえない状況に陥ったのです。

その状況変化はもろに弊社の業績を悪化させ、このままでは遠からず倒産と言うところまで追い詰められました。

何とかしなければと思い、大手メーカーに頼らず、自社ブランドの製品を作って販売してみようと思いつきました。

しかし、筆記具業界は古く固定された業界で、知名度のない新規のブランドは流通が相手にしてくれません。

しかしちょうどその頃勃興気から成長期に入っていたネット通販ならチャンスがあるのではないかと一縷の望みを託し、開業したのがペン工房キリタです。

ただ、ネットショップでオリジナル製品を売ろうと思ったものの、肝心な 製品が自分たちにはありませんでした。

なにしろ今までは大手の下請けとして、生産するだけの工場でした。デザイン部門が社内にないのです。

与えられたデザインを製品化することはできても、自分でデザインをすることには全くの素人ばかりでした。

そこで、とりあえず過去に生産して今は廃番になっているセンスの良い製品の中から、部分的にデザインを流用してちょっとだけアレンジを加えた製品をいくつか考えました。

あの製品のこの部分と、そっちの製品のこの部分をくっつけるみたいな感じですね。(もちろん、今も筆記具を販売している会社の製品からは流用できませんが。)

そんなこんなで数点のデザインはできてきました。

しかし、そうこうしているうちに、やはり焼き直しのデザインばかりではしょうがないんじゃないか。自社ブランドを立ち上げる意味がないんじゃないかという気持ちが持ち上がってきました。

どこかで見たようなデザインばかりでは、お客様も購入してくれないんじゃないか。1つ位はオリジナルデザインで、個性のある製品が欲しい。

そんな気持ちから、先ずは1本、100%オリジナルの製品を作ろうと決心をしました。

コンセプト

一口に自社製の筆記具をネットで売ると言っても、低価格帯の製品では中国製や、国内大手の製品に対抗できません。

一方では海外の高級品は2〜3万円のものが多い。

利幅も考えて、ペン工房キリタが扱う製品は5000円から1万円を中心価格帯にしようと考えていました。

ただ実際にはもう少し安い製品の方が買いやすい。入り口商品として、名入れをして送料を入れても5000円前後で買えるものが必要でした。

そこで新しく開発するオリジナル製品を3000円台の価格設定として、ショップの看板となる入り口商品に据えることにしました。

その上で、さらにコンセプトを詰めていきました。

基本コンセプトは、事務用の安いペンでは物足りない30代から50代の男性が、日常的に使い倒す取り回しの良い中級品です。

まあ最初のうちは、それらのことは漠然と頭に思い浮かべていただけなのですが、そんな状態でデザインを考え始めました。

と言ってもデザインは専門外。とりあえず実際にまずやったのはペンのカタログを見まくることでした。

ただ、今までもペンのカタログはよく見ていましたが、目的を持って見ると今まで気づかなかった色々な面が見えてくるものですね。

基本的には自分の好みで、こんなペンが欲しい、あんなペンならあの人にあげたい。そんな目で見ていったのですが、段々といくつかのペンに刺激を受けるようになりました。

ペンカタログを色々見ていくうちに、従来の、先軸と後軸に分かれているオーソドックスな形には個性を感じられなくなってきました。

それよりも、大きく3つに分かれているファーバーのエモーションや、4つに分かれているぺんてるのペンナ−トリストンズなどがおもしろいと思えてきました。

トリストンズ

デュオフィールド

しかしお家の事情というものもありまして、

企業からの別注や、個人グループからのまとめ買いにも素早く対応のできるシンプルな製品にしたいという気持ちも強く持っていました。

個人向けだけだとどうしても数がさばけない。組み立ては手作業でも部品は工業品だから、ある程度数量をさばかないと部品単価が増し値で高コストになってしまうのです。

そういったことを考えると、全体の構造はある程度シンプルに組み立てやすくし、部品点数も多くしたくない。

そこで本体はパーカーのデュオフォールドボールペンのような一本軸にすることによってシンプル構造にしつつ、かつデザイン的にも個性を持たせようと決めました。

ファーバーカステル

そして本体をシンプルにする分、クリップや天金などにインパクトを持たせることにしました。

全体のデザインとしては女性が好む細さや曲線は採用せず、どちらかというと男性が好む無骨さのあるデザインになっています。

どちらかというと無骨なデザインのケーファーですが、これははっきり言ってデザインした私が女性の好みの全く分からない野暮男であることに原因があります。(笑)

新製品を作るならとにかく女性が好むデザインにしろと、随分と多くの人から言われました。

でも、無理して女性向けを追求しても、どうせセンスがないのだから、はっきり自分好みで徹底し、分からないものは分からないで諦めました。

また、本体軸に曲線を出そうと思うと、深絞りというプレスの技術を使うことになるのですが、ロットも大きく納期もかかります。

実際に採用したのは真鍮のパイプで、無骨なストレート軸にはなりますが、小ロットで調達が早くすみます。

この辺のお家の事情などもこっそり加味して、最終的にはかなり男性的なストレートの1本軸を採用しました。

さらに1本軸が間延びして見えないように、全体の長さは少し短めに、先金と天金は少し大きめにしてバランスをとりました。

構造的にはもう少し短い方が芯の交換も楽なのですが、短すぎるとミニペンになってしまうので、この長さの比率は相当考えました。

試作も作り何度も修正しながら決めていきましたが、結果としてこの短かすぎない短さが取り回しの良さに繋がり、非常に好評をいただくことになりました。

ケーファー

開発編

メカと芯

シンプルなストレート1本軸でちょっと短め、クリップ・天金で特徴を出す。と言う基本概念を決めた後、具体的な長さや太さ、形状や構造を考えていきました。

芯の出し入れに使用するメカは、既存のクロス社タイプの芯用の回転メカを使用することが決まっていました。

1本軸のペンでは、回転メカは使いにくくノックタイプにするのが作りやすいのですが、ノックタイプではやはり高級感に欠けます。

2,000円位までの1本軸ボールペンではノックタイプがほとんどですね。

でもこの製品は、安物ではないけど高すぎない「ちょっと良い品」を目指していたので、ノックタイプにはしたくありませんでした。

一方先軸と後軸をひねって芯を出す回転メカでは、後軸にメカを仕込むパーカータイプと、先軸にメカを仕込むクロスタイプの2つが主流となっています。

1本軸のペンで回転メカを使うには、パーカータイプの場合、本体軸を後軸に見立ててメカを仕込み、先金を先軸に見立て、回転時には本体と先金をひねることになります。

(パーカーのデュオフォールドでは、はみ出しながら無理矢理気味に天金にメカをつけています。)

クロスタイプの方が、本体軸を先軸に見立てメカを入れ、天金を後軸に見立てて作れば本体と天金をひねって芯を出せるので、スマートです。

桐平では元々クロスタイプのメカを主に使っていましたので、メカについてはクロスタイプの仕様が自然と決まりました。

本体サイズ

また、ケーファーの太さは直径9.5mmです。本当は構造上は10mmにすれば既存の部品も使え、設計上の余裕もあったのです。

でもKWシリーズのような先細りの軸なら、太い部分が10mmでも良いのですが、ストレート軸の10mmは微妙に太いんですよね。

そこで9mmを目指したのですが、そうすると構造上どうしても内部の機構が収まらない。それでしかたなく9.5mmと言う半端なサイズになりました。

本体の真鍮パイプの肉厚は0.5mmです。

キリタの他の真鍮ペンでは肉厚0.4mmのものが多いのですが、このペンでは少し短めの分、軽くならないよう、0.5mmにしました。

それに、肉厚0.5mmなら既製品のパイプが使える分、調達が早く、急な注文にも対応しやすく、別注を取るのにも有利になります。

このように長さや太さなどは、純粋に理想のデザインを追った行っただけでなく、構造上の制約や、材料調達のしやすさなどにも影響されています。

にもかかわらず、出来上がった製品の長さ・重さ・太さのバランスは絶妙で、多くのユーザーから絶対的な支持を得ています。

確かに大枠としては、狙っていた事は狙っていたのですが、完成してみたら狙った以上のものになっていたのです。

このことは私には、追い詰められた経営状態からなんとか会社を立ち直したい。みんなの生活を守りたいという気持ちで開発した製品の上に振ってきた奇跡のように思えるのです。

ケーファーボールペン、本体軸パイプ

天金のカーブ

ここまで読まれた方には、ケーファーの開発が至極順調にいったような印象を持たれるかもしれませんが、なかなかどうして上手く行かない部分もありました。

その中でも、手こずって手こずって、このままじゃらちがあかないんじゃないかと心配までしたのが、頭部の天金です。

完成された天金を見ると、ペン本体と同じ太さから始まって、後ろに行くにしたがって少しラッパのように膨らんで終わっています。

ぱっと見ると実にどおってことない形状に見えますが、この形状にたどり着くまでに、ずいぶんと色々な形を試しました。

実は最初は、太さは本体と同じまま、指の形に添うように3ヶ所に窪みをつけるつもりでした。

ファーバーカステルから出ているポルシェデザインのペンで、握る部分の指の当たる3カ所に窪みの付いているペンがあります。

それをイメージして窪みの長さや太さを考えて図案化してみたのですが、どうもしっくり来ないんです。

そこで3ヶ所の独立した窪みではなくて、軸全体が少し細くなってから本の太さに戻る形で設計してみました。

これも細り始めの位置や絞った部分の細さ、カーブのアールなどを色々なパターンで試作しました。

さらに、細くするのを止めて、ずっとストレートで続くものや、逆に途中から太くするパターンも色々と作ったのですが、どれも自分が求めているカーブとはちょっと違うんです。

ポルシェデザイン

色々なカーブを試しても、どれもいまいち自分の納得のいく曲線がでないケーファーの天金ですが、かといって自分でも理想の曲線が頭にあるわけではないんです。

何となくもやもやとした姿は見えているのですが、いまいちはっきりしない。何ともじれったい感覚で、頭の中はすっかり混乱してしまいました。

そんなもうどうしたらいいか分からなくなって、ちょっと途方に暮れていた時に、キリタでNC旋盤を担当している関さんが「天金のカーブ、これでどうですか。」と言って差し出してきた部品がありました。

実はこの天金の開発の進め方としては、まず自分で図面を何枚か書き、これは良さそうだと思うものだけをNC旋盤で関さんに試作をして貰うというパターンでここまで進めてきたのです。

で、何個試作を作っても納得しない僕を見て、関さんが自分で考えた曲線のパターンを、僕の今までの図面を元に試作をしてみて、僕に見せてくれたのです。

その天金を見た時、一瞬で、これこそが僕の探していた曲線だと直感しました。

自分で何パターンも図面を引きながら見えてこなかった理想の曲線を、関さんが見事に探し当ててくれていたのです。

今改めて現物を見ても、要はどこから曲線が始まり、何アールで曲線が続き、最終的にどの位の高さと距離で終わるかと言うだけの事なんです。

でも、自分では見つけられなかったそのカーブは、すごくシンプルでスッキリしたカーブでした。

ケーファー天金のボツ図面

天金の柄入れ

ケーファーの目玉機能とも言えるのが、頭部の金具(天金)に自由に柄を入れられる事でしょう。

これは絶対に、完成品を店頭で売る大手のメーカーにはできない事です。

これは最初、どうやったら別注が取れるかを考えて考案したものです。記念品を受注するのに、会社や学校などのロゴをペンに入れられれば、注文を取りやすいと思ったんです。

ネットショップと言っても1小売店である事に変わりはないですから、個人向けにいくら売ってもトータルでどの位売れるのかは未知数でした。

と同時に、真鍮製のペンは工芸品ではなくあくまで工業製品です。ある程度の数量で発注しないと、クリップ屋さんや塗装屋さんなどの価格が凄い増し値になってしまいます。

ですから一定以上の数量をさばくには、何とか別注を取りやすくしておきたかったのです。

もちろん個人の方にもお好きな柄を入れて楽しんで貰いたいという希望はありました。ただ、それだけではない打算もあったという事です。

私個人としては、柄の入っていないプレーンが一番好きなので、個人の方で柄を入れる方がどの位いるのか想像がつきませんでした。

そして実際に発売を始めて見たら、あらびっくり。別注の注文もポツポツ来てくれましたが、それ以上に個人の方から色々な柄の注文が次々と舞い込んできたのです。

一番多いのは、一文字ないし二文字のイニシャルを入れる方で、それを入れる事によって手軽に自分だけのオリジナルペンを作れる。

またはそれを贈る事によって、世界に一本だけのオリジナルボールペンをプレゼントにする事ができることが魅力なようです。

ケーファー天金製作実例集

イニシャルほどは多くはないですが、いつも楽しみながら製作させて貰っているのが、何かのキャラクターや自分のオリジナルのロゴを入れるご注文をいただいた時です。

本来は商標権のあるキャラクターなどは商品化はできないわけですが、追加料金なしで、ロゴの入っていないものと同じ価格で販売する事で、私が個人的にペンに絵を描いているというスタンスを取っています。

多いのは動物や植物のイラストや車のロゴ、好きなスポーツチームのロゴなどでしょうか。

その他に一点ものとして会社夜学校のロゴや自作のイラスト、自分の好きなキャラクターなど、実に様々な柄の要望が寄せられます。

図柄については、基本的に画像のメール添付でいただきますが、中には画像の状態が良くなくそのまま印刷できないものもあります。

そのような時にはこちらで修正や描き直しなどの校正を行いますが、それがけっこう手間暇がかかるんです。

サービス残業で何とかこなしている状態なので、本当は有料サービスに移行したいんですよね。

でもそうすると商標権のある柄はお受けできなくなるし、お客様も気軽に依頼できなくなると思って、今はまだ無料で頑張っています。

いずれタイミングを見て有料に移行するかもしまれませんが、でもできるだけ長く無料で頑張りたいですね。

天金の柄入れには、先ず天辺の凹んでいる天金を用意します。
その凹みの底に、プリンターで印刷した柄を丸く打ち抜いたラベルを貼り、さらに上から透明のエポキシ樹脂を注入し焼き固めます。

と書くとなにやら簡単そうですが、実際はかなり大変でした。

なにしろ1本からですから、印刷業者とかバッチ業者とかは使えません。

先ず社内にある市販のプリンターと市販のラベル用紙で柄を製作するのですが、これがなかなかやっかいでした。

それというのもインクと紙によって、エポキシを注入した時にインクが滲んだり変色したりするのです。

どのインク、どのラベル用紙を使った時にそうなるのか、焼き固める時の温度や時間なども含めて様々な組み合わせでの試行錯誤を行いました。

発売開始後にも上がりが安定しないで、その時々によって、昨日と同じ条件でやったつもりなのに、昨日は良くても今日は滲んだなんてこともあり、途方に暮れた事も何度もありました。

急いでいる時に限って上がりが悪く、大急ぎで作り直したり、廃棄しなければならなかった天金も相当の数になります。

一時期は、この企画はもう実現できないかと半ばあきらめかけた事もありました。

色々と苦労したケーファーの天金ですが、開発初期には、エポ入れの終わった柄の中心に黒い影が映るようになり大騒ぎになった事もあります。

柄の真ん中に小さな黒い影が必ず浮かぶのです。
最初に見た時には、全く原因が想像つかず、いったいこれはなんじゃらほいと言う感じで、途方に暮れました。

実は旋盤で削り上がった状態の天金には、縦に貫通穴が空いています。

張り前

天金は切削後に切り粉を水槽の中で洗い流すのですが、本体側の穴の中に溜まっている切り粉が、貫通穴がないと流れがないのでなかなか出て行かないのです。

そこで穴の空いた状態で製作し、柄を印刷したラベルで穴を塞いで仕上げるようにしました。

天金にはピカピカと光るロジウムメッキがかかっています。それはつまり外からの光を反射させている事になります。

凹み部分には上からラベル用紙と透明エポが乗っていますが、それでも上から入ってきた光は透明エポとラベル用紙を通り抜け、メッキに当たって反射して光を返します。
そのことによって、柄が明るく見える事になります。

しかし凹みの中心に穴が空いていると、穴の部分だけは上からの光を反射しないので、その部分だけ暗い影になってしまうのです。

と、分かってしまえば簡単な原理なのですが、そこに思い至るまでは相当考え込んでしまいました。

今も貫通穴は空けていますが、柄ラベルを貼る前にアルミ箔を張り穴をふさいで対処しています。

張った後

現在では、いくつか試した中で一番良いプリンター(インク)、一番良いラベル用紙、焼き温度や時間などが段々分かってきて仕上がりも安定してきました。(詳細は秘密ですが)(笑)

特に、印刷からエポ入れまでの時間を2日間ほど空けるようにしてから、良くなったようです。

エポ入れ後

クリップの構造

ケーファーで天金に並んでもう一つ特徴的な部品がクリップです。

ここ数年の間に、世界の高級筆記具業界の間では、クリップの個性化がもの凄く進みました。

元々クリップは「ペンの顔」とも言われ、そのペンのデザインを決定づける重要な要素でした。

従来は、ピンピンと跳ねるバネ性を持たせるために、薄い鉄の板をプレスで曲げて作る方法がとられていましたが、この方法だとひらべったい感じになりデザインのバリエーションが広がりませんでした。

それが最近では、鋳物や切削加工による、厚みがあり固まり感のあるクリップを使用するケースが増えてきました。

ただ多くの場合、それらのクリップには、それ自体にバネ性は有りませんから、小さなバネを別部品として組み合わせてあります。

そのようなクリップを採用する事によって、今までではできなかった立体感のある様々な形のクリップが作られるようになってきています。

ケーファーも、本体そのものはストレートのパイプを使ったシンプルなデザインですので、クリップには立体感のあるものを使いたいと思っていました。

ただケーファーの場合は、頭部の天金を回して芯の出し入れをするので、小さな別バネを頭部に仕込む方式は採用しにくい形状でした。

そこで、鋳物(ダイキャスト)で厚みのあるクリップを製作し、プレスで作った鉄の小さなクリップとカシメて組み合わせる方式を採用しました。

ケーファークリップ

ケーファーの開発で、最もお金がかかったのがクリップの型代でした。

鋳物の型には何種類かあり、価格もまちまちです。

装飾品・アクセサリーなどにはワックス(ろう)型とかゴム型と呼ばれる、原型から型どりして型を作るものがよく使われます。

それらは型代も数万円と安いし、比較的小ロットでもできるのですが、出来上がりに歪みなどのバラツキがあります。

装飾品の場合は、後工程の研磨などで綺麗に仕上げるのですが、微妙に形が不揃いになります。

他の部品と組み合わせて使用する工業用品には向きません。

ダイキャストとは精巧な鉄の型で作った鋳物で、おもちゃのロボットで言うところのいわゆる超合金Zです。(懐かしい響きですね〜。)

原型からではなく、図面から鉄を切削して作るガッチリした鉄の型で、仕上がりが綺麗に揃い、他の部品と組み上げるにも適しています。

ただ型代は、大きさと複雑さに寄りますが、大まか数十万から100万の費用がかかります。

ケーファーのクリップとしては、できれば低予算のゴム型などを使いたかったのですが、やはりペンの一部品として組み上げる事を考えると、ダイキャストを使うしかありません。

ただ苦しい台所事情もあり、何とか安く作れないかと型屋さんに相談したところ、製作途中でキャンセルになった型があるので、それを使って安くしましょうと言っていただきました。

でもそのことが結局、後に色々な問題を引き起こす事になりました。

ケーファークリップ

クリップのメッキ

型代を安く作れたと喜んでいたクリップのダイキャストですが、いざ製造を始めて見ると、組立現場から不満の声が上がってきました。

メッキ上がりの仕上がりが、今一綺麗じゃないというんです。

通常キャストや真鍮の切削部品なども、メッキ前の段階で、研磨剤をつけた布を回転させて品物に当てる「バフ」という研磨を行います。

メッキの仕上がりの美しさは、8割方バフで決まると言われており、美しい仕上がりを目指す上では、非常に重要な工程です。

今回のキャストもバフを使って研磨してありますが、それでもメッキの肌(表面)が荒れているものが結構あるというのです。

とりあえず全数検査による選別で対応しましたが、歩留まりが悪いままでは利益が上がりません。

メッキ上がりに選別で不良を弾くと言うことは、キャスト代、研磨代、メッキ代、選別代までが無駄になってしまうと言うことになります。

不良を出した工程の業者に、補償を求めると言うことも考えられますが、そのためにはキャストの成型工程、研磨工程、メッキ工程のどこが悪いのかを特定しなければなりません。

でもこれがなかなか難しいのです。

今回の件に限らず、研磨とメッキは密接な関係にあるのですが、以外とメッキ屋に言わせると磨きが悪い、磨き屋に言わせるとメッキが悪いとか生地が悪いとか言い合ったりする場合が多く、原因が特定しにくいのです。

なにしろみんな下町の職人なんで・・・(涙)

とにかく言い合っていても話は進まないので、メッキが上がっているものは選別をし、次回のメッキ時からはコストが多少上がっても良いから研磨を入念にして貰うことにしました。

そして数ヶ月後に次のロットが上がってきたのですが、まだあまり良くないのです。

磨きを入念にやっている分、確かに前回よりは良くなっているのですが、まだ全数検査無しで流せるレベルには達していないのです。

再び各工程の職人に聞き取りをすると、磨きの業者から、どうも磨き前の生地の段階で肌荒れがひどいから、これ以上は綺麗にならないとの意見が出てきました。

そこで、キャストの成型業者に事情を説明し、キャストの肌をもう少し綺麗にできないかと相談したら、次回生産時には圧力や時間を工夫して貰うことになりました。

そしてさらに数ヶ月後、次の生産を行うことになり、キャスト業者にはよくよく綺麗に上げてもらうよう念を押し、作業をしてもらいました。

本来なら成型上がりで検査を入れたいのですが、キャストの成型上がりというのは磨かないとその肌の出来映えが分かりにくいのです。

成型時には何十キロもある型を成型器にセットして、ドロドロに溶けた材料を流します。

納入品を取る前には、型と機械の調子を出して安定するまで、数百から千個程度は捨て打ちもしなければなりません。

ですから、数個だけ打ってみて磨いて見る訳にはいかず、一度セットしたらある程度の数量は作ってしまいます。

結局注文数は全て打って貰い、研磨屋に持ち込んだのですが、研磨屋が磨いて見て曰く「まだあまり良くない」とのこと。

成型条件を見直して丁寧に成型して貰ってもまだ綺麗にならないキャストクリップの表面の問題に、もうこの頃になると、頭の中はグチャグチャで、どうして良いか分からなくなっています。

既に3ロットも打ち、全数選別しながら使っている状態が1年も続いているのですから、組立て現場でもイライラが募ります。

ともかくキャストの成型屋にまた行き、相談しました。

成型屋の見解では、調製でできる範囲のことはやった。どうもドロドロに溶けた材料の型内での流れが悪い。これは型の問題で、ゲート口の位置が悪いんじゃないかとの見解でした。

ゲート口とは溶けた材料を型に流し込む入り口のことで、型の形に合わせて効率の良い場所に作ります。

ただこの型は、他の形用のものを転用したため、ゲート口の位置が、このクリップの形には流れにくい位置になってしまっていたのです。

ここまで判明するのに、それほど頻繁に生産しないため、実に1年位がかかっていました。

そして最後に分かったことが、型代を節約しようとしたために問題が起こっていたという事実でした。

それを決めたのは他ならぬ僕ですから、この事実にはかなり凹みました。

結局、イマイチ表面の肌の悪いクリップは、選別しながら3年間程使い続けました。

苦しい台所事情と型代を考えると、簡単に作り直すこともできませんでした。でも、いつまでも歩留まりが悪いままという訳にはいきません。

さいわいケーファーは評判良く売れ続け、累計本数もかなりの数量になっていました。

そこで今後のことを考えると、ここらでもう一度、型から作り直そうと言うことになりました。

今回は、前回の型屋さんではなく、ペンクリップの専門会社である東京金属工業さんを通じて、別の型屋さんで作ることになりました。

東京金属さん自体はプレス屋さんですので、ダイキャストの型製作や鋳造は行っていませんが、技術力のあるキャスト屋さんを知っていて、綺麗な型を作ってもらいました。

今までの型で作ったクリップに比べ、ようやく表面の肌も綺麗になり、磨き工程も楽に、歩留まりも向上しました。

現在ケーファーのキャストクリップはストレートタイプと十字タイプの2種類がありますが、良いキャスト屋さんが見つかったことで、今は次のクリップも視野に入っています。

実は去年、第3の形のクリップを作る計画だったのですが、リーマンショックからの景気の落ち込みで、型の制作依頼が延期になっています。
何とか今年の後半か来年には着手したく思っています。

クリップに限らず、ケーファーには少しずつ改良が加えられていて、これからも色々な計画を思い描いています。

発展編

細かな改良

2005年の発売時から一見何も変わっていないように見えるケーファーですが、実際には目に見えないところでかなりの進化をしてきています。

ここでは、ケーファー改良の歴史をご紹介いたします。

先ず、発売時にはボールペンしかなかったケーファーですが、1年後の2006年の春にシャープを追加しました。

なぜ最初からシャープも一緒に出さなかったのかというと、ケーファーの最大のウリである、天金に柄が入る仕組みのためです。

通常のシャープでは、天金部分にノックボタンを突き出させています。

しかしケーファーでそうすると、ボールペンと異なり、柄の入る部分がノックのてっぺんのとても狭い面積になってしまいます。

ボールペンの天面でも込み入った柄を入れるには狭い位なのに、ノックボタンの天面ではとても見栄えの良い仕上がりにはなりません。

しかたなく当初はシャープを諦め、ボールペンのみの発売になりましたが、シャープも出したい気持ちはずっと持っていました。

そこで、困った時の現場頼み。

シャープも出したいんだけどノックボタンはつけたくないことを相談すると、NC旋盤の担当をしている関が苦労して回転ノックの仕組みを考えてくれました。

細かな切削部品の組み合わせで、横方向への回転を縦の動きへ変換する仕組みで、これによってノックボタンを天金の上に突き出さずにノックができるようになったのです。

この回転ノックの開発によって、天面にボールペンと同じ大きさの柄を入れられるシャープが発売可能になりました。

その他の細かな進化として、クリップの座金部分の肉厚の変更や、メッキのロジウム化なども密かに行ってきた改良です。

クリップのバネ性の強さは、プレスで作る板バネの場合、折り曲げ方と板の肉厚で決まってきます。

横方向と縦方向を組み合わせた折り方だと強度も増すのですが、ケーファーの場合は一方向の折だけなので、バネ性が若干弱かったのです。

そこで、発売当初は0.5mmだった板バネの肉厚を、2年後には0.6mmの肉厚の板に変更し、クリップが緩くならないようにしました。

たった0.1mm肉厚が厚くなっただけですが、ずいぶんとバネ性が強く、クリップが緩まなくなりました。

また、部品のメッキについては、発売当初は錫と銅の合金メッキ(銀色)を使っていました。

このメッキは、少し柔らかい銀色のメッキで、風合いが気に入っていたのでブランド物のOEMにも使っていた物でした。

他のブランドペンで問題なく使っていたメッキでしたが、ケーファーの場合、回転のために摘む部分が天金部に集中するため、ずっと使い続けると、天金の握る部分のメッキが薄くなってくるという報告を受けるようになりました。

そのため、部品に使うメッキを合金メッキから、メッキ代は少し上がりますが思い切ってロジウムメッキに変更しました。

ロジウムといえどもメッキである限りは、使い続ければ退色していきますが、合金メッキに比べればかなり持つようになりました。

こちらも発売2年での変更でした。

ケーファーの本体カラーは、ブラック、ワイン、ダークブルーの3色ですが、その中でダークブルーはかなり濃い、黒に近い濃紺でした。

深みがあってとても良い濃紺で評判も良かったのですが、1つ困ったことがありました。

それは、ダークブルーをお届けしたお客様から時々「黒が間違って配送された」という連絡を受けることでした。

そこで一昨年、発売から4年の時点で、ダークブルーの青をほんの少し明るめの紺に変更しました。

なにげに見ていると気づかない程度の変更なのですが、黒と間違われない程度に明るく、ほんの少し紫系の入った紺でこちらの色もとても気に入っています。

スワロフスキー

今年(2010年)に入って、天金柄の勢力図を大きく塗り替えたのが、スワロフスキー入りの天金をつけたケーファーです。

それまでのケーファーは、以前のこの稿でも触れたように、直線的で硬い男性的な感じのするペンでした。

これに対して組み立て現場の女性陣から不満が爆発、「もっと私たち女性向けの製品も作ってよ。ほら、こんなの試作してみたわよ!!」

って言われて現場から上がってきたのが、天金にダイヤのようなカットガラスを入れたケーファースワロフスキバージョンです。

スワロフスキ

最初は懐疑的だった僕ですが、もちろん女性陣には逆らえません。(笑)

型の投資が必要な訳ではないので、様子を見るつもりで始めたスワロバージョンですが、発売を開始すると意外なほどの注文数で、今ではすっかり定番品になっています。

最近巷では、ケータイなどにびっしりと小さなスワロフスキーを貼り付けた物がはやっています。

ケーファーでは使用者の年齢層をあまり若者向けに設定していないので、全身にびっしり貼り付けることはしないで、大きなスワロを1つだけ天金につける形にしています。

さらに、+1,000円でクリップにも小さなスワロを並べて貼り付けるサービスもしていますが、こちらも好評で、全く現場の女性陣に頭の上がらない状態が続いています。

季節のケーファー

ケーファーの天金柄は、原則としてお客様のリクエスト通りに製作していますが、昨年のクリスマスに始めてこちらが用意したイラスト入りの物を製作しました。

東武デパート池袋との連携企画で、クリスマスの限定バージョンとして、サンタの顔、雪だるま、クリスマスツリー、プレゼントの入った長靴、雪の結晶の4種類の図柄を発売しました。

クリスマス
(写真は2011年バージョン)

実用にちょっとしたかわいらしさを加味したクリスマスプレゼントとして、かなりの好評をいただきました。

これをきっかけに、クリスマスの限定バージョン販売終了後に、新春バージョン、夏バージョンと、順次季節の限定で発表しています。

新春柄は日の出、梅と鶯、サクラの花びら、バレンタインを意識したハート柄、入学を意識した大変良くできましたのスタンプ風の5種類。

夏柄は星空、ホタル、金魚、朝顔に、母の日を意識したカーネーション、父の日を意識した黄色のバラの6種類です。

これらの限定柄は、通常のイニシャルや家紋、スワロなどが平行して売られているため、トータルの数量的にはさほど大きな注文数にはなりませんが、一定の支持を得てそれぞれ売れていっています。

毎回、今回はどの柄がよく売れたなどとスタッフと話し合い、来年に残す柄、変更する柄はどれにしようかと、柄を考える側としても苦しみながら楽しんでいます。

パール色

またケーファーで、もっと明るい色も欲しいという声をちょこちょこ聞くこともあり、かなり以前から白系の新色を出すことも考えていました。

実は真っ白のケーファーは既に試作をしてみたのですが、チョット物足りない感じがしたので、一度は中断したのです。

ただやはり明るい色は欲しいということになり、ただの白ではなく、よく見るとキラキラが塗装に埋め込まれたパール塗料を使うことによって、センスの良いホワイトを作ることにしました。

その他パールピンク、パールブルー、シャンパンゴールドを加え、パール系の4色の新色として、2010年暮れに発売しました。

パール色

さらに

さらに、本体に塗装ではなくロジウムメッキを使う製品や、逆に真鍮のままの製品なども 検討中です。

どれが最初になるかはまだ分かりませんが、楽しみにお待ち下さいませ。

傾きかけた会社の窮余の一策として企画されたケーファーは、開発中の困難をいくつも乗り越え、発売後もお客様の声を参考に多くの改良を加えてきました。

これからも改良と進化を続けて行くことと確信しています。
(天金柄の無料だけはいつまで続くか分かりませんが。(笑)


 

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